Integrating Japanese Eastern medicine with Western medicine.

今回は私の専門分野の「呼吸」についてお話ししたいと思います。「呼吸?」って思われる方も多いと思います。人間の動作の中で一番多いのがこの呼吸で、我々は実に1日2万回以上も呼吸をしているのです。ですので、呼吸がうまく出来ていないと、その繰り返しからくる負荷の蓄積から首、肩、腰といった筋骨系の問題に深く関わってきます。それだけでなく、後で少しご説明しますが、興味深いことに性格やストレスなどにも関わっているようです。しかしながら、呼吸はあまりにも無意識に行なわれるので何が正しい呼吸なのか? どうしたら効率的な呼吸になるか? など、呼吸についてじっくり考えたり、呼吸のエクササイズをしたことがある人は少ないのではないでしょうか?  一般的に 肩で息を吸う“肩式呼吸”、胸で息を吸う“胸式呼吸”とお腹で息を吸う“腹式呼吸”に分けられる事が多いです。

肩式呼吸

肩式呼吸は肩を持ち上げながら息を吸う呼吸方法で、運動の直後などは別として、明らかに間違った呼吸方法です。

Diaphragm at Houston Museum

本来であれば横隔膜を下に引き下げて吸気を肺に入れるはずの動作が、肩式呼吸では逆に肩を上げて空気を取り入れることから首や肩、腰などへの負担が非常に大きく、日々2万回以上も繰り返すことで負担はさらに大きくなります。常に息苦しかったり、酸素不足を感じる人、または常に疲労感がある症状の方は肩式呼吸に陥っている可能性がありますので、すぐに直した方が良いです。“肩式呼吸”に陥ってしまう原因は多岐にわたりここでは理由や対処方法については深くは書きません。もし心当たりのある方は専門知識のある治療家にご相談ください。  


胸式呼吸

胸式呼吸はピラティスや声楽などで古くから教えられているようです。決して間違いでは無いのでしょうが、胸を膨らませるということだけが重視され、人間の体の作りや本来の自然な呼吸方法と離れてしまっている気がします。単に胸だけが膨らめば良いというわけではないのです。以下で説明しますが、本来、胸式呼吸と腹式呼吸は同じ呼吸法だと私は考えています。ですので、以下腹式呼吸の扱いとして説明していきたいと思います。  

腹式呼吸

腹式呼吸は一般的に良いとされています。しかし私の経験上、この腹式呼吸を勘違いして行なっている方が多いと思います。また、残念なことに腹式呼吸を推奨し、教えている人たちも実際正しい知識の元に腹式呼吸とは何かを理解し、教えていることが少ないように思われます。例えば、よく“息を吸った時にお腹が膨らむ”、“お腹で息を吸う”ことだけが正しい呼吸だと思い込んでいるのがその一例です。そうした場合、肋骨や胸郭が膨らまずにお腹だけポッコリ膨らませ、実際肺に空気があまり取り込めていないことも多いです。私自身も呼吸のことを深く勉強するまではお腹が膨らめば良い呼吸法ぐらいの認識しかありませんでしたが、この「腹式」という言葉が勘違いを呼ぶこともあるようです  

正しい呼吸とは??

ではズバリ正しい呼吸とは何か? 私は“横隔膜が主体となって胸郭全体が広がる呼吸”だと思っています。何のことやらですよね。良い例としてオリンピックなどで一流の水泳選手がプールから出てきた時を見てみてください。決してお腹がポッコリポッコリとした呼吸ではなく、胸郭全体が風船のように広がるのが見て取れると思います。“呼吸”といって勘違いされやすいのは胸の前方だけのイメージが強すぎて、胸の前が広がることだけをイメージしている方が多いと思います。しかしながら正しい呼吸方法とは息を深く吸った時、胸郭が前後左右と360度広がるものを指すのです。 

では正しい呼吸を身につけるためにはどうしたら良いのでしょうか? まず大きく分けて正しい呼吸ができない人には「息を吐けない人」と「息を吸えない人」の二つのパターンがあり、パターンごとに問題に取り組む事ができると思います。 

呼気困難:”空気が胸郭に溜まりすぎ”

まず「息を吐けない人」ですが、筋骨系で肺を囲まれている哺乳類はどんなに頑張っても胸郭の膨らみには限界があります。それなのに「吸うこと」ばかりに気が取られてしまっている状況です。アコーディオンの蛇腹のイメージをしてもらえばいいのですが、蛇腹を常に最大限引き伸ばした状況で楽器を使おうとしているので実際の空気の入れ替えは少なくなってしまいます。収縮させるからこそより多くの空気を取り入れられるのです。Barrel Chest(樽状胸郭、バレルチェスト)と呼ばれるように胸郭が樽のように膨らんだ状況だったり、鳩胸のように胸骨がやたら上を向いてしまっていたりする人は過膨張になりこうした息を吐けない状況に陥っています。喘息などの呼吸器系疾患を過去に抱えていた方も、息を「吸おう吸おう」としてこの呼吸に陥りやすいと感じます。ちなみにこの呼吸方法をしている方は常に体を緊張させている傾向があるので、交感神経が強くなり、体のテンション(緊張)が強く、上手くリラックス出来なくなります。交感神経が強く働きすぎるとイライラしやすくなり、性格などにも影響してきます。 

PRI balloon exercise

ではどうしたら良いか? まず息を吐けるようになりましょう。ここで大切なのは息を吐き切ることです。吐けない人は、自分が吐き切ったと思っていても実際まだまだ大量の空気が肺の中に残っていて吐き切れていない事が大半です。胸骨がぐっと下がって肋骨が小さくしぼむまで頑張って吐き切ることを覚えるのが大切です。私がオススメするのは風船を使ってのエクササイズです。風船は抵抗を与えてくれるので、息を吐くための筋肉を感じやすく、吐き切る感覚がつかみやすいです。最後の最後まで空気を肺から搾り出そうとすると、肋間の筋肉、お腹周りの筋肉、そしてお尻の下の筋肉がグッと入ってくる事が感じられると思います。そうした「吐く」ための筋肉を活性化させ、ドンドン吐けるようになりましょう。息を吐けるようになると自然と体がリラックスを覚え、さらに酸素交換量が増えていきますので頑張って空気を吸わなくてもよくなってきます。補足ですが風船を使ったエクササイズはお腹周りそして肋骨周りを絞る筋肉群を効率的に鍛える事ができます。ですので、ウエストを細めるエクササイズとして最も効率的です(以前の記事でも書きましたが腹筋運動してもウエストは細くなりませんよ)。さらに骨盤底筋群と息を吐く筋肉は連携して動きます。ですので、息を吐けない人は骨盤底筋群もうまく使えていなく、尿漏れや、頻尿などの問題とも連携してきます。息を吐くエクササイズはそうした問題を抱えた方にも有効な方法です。  

吸気困難:”横隔膜が弱くて胸郭が膨らまない”

さて今度は「息が吸えない人」です。注意してほしいことは、まずキチンと息を吐けない人はキチンと吸うことは出来きません。ですので、吐くことをまず出来るようになってください。息が吸えない人は横隔膜や肋間筋が単純に筋力的に弱いケースも多々見かけられます。しかし私の経験では、キチンと吐く事ができていないため横隔膜が機能出来ない状況に陥ってしまい、使いたくても使えない状況に陥っているケースの方が私は多いと感じます。もう少しわかりやすくご説明しましょう。一例とし「Rib Flare(リブフレアー)」が挙げられます。本来下部肋骨の浮きを抑えるコア筋群が機能しなくなり、長年の蓄積の結果下部肋骨が浮き上がってしまった状態をさします。横隔膜は筋肉なので肺を引っ張り下げるためにはその土台が必要となってきます。横隔膜は下部の肋骨と肺に繋がっていますが、その土台である下部肋骨がしっかりとしていないと筋肉は引っ張る土台がありません。そのため横隔膜は力を入れたくても入らなくなってしまいます。

Power Lung

結果、息が正常に吸えなくなってしまうのです。ちなみにこの下部肋骨を押さえる筋肉は息を吐く筋肉群です。ですので、吐く事がキチンと出来ることが本当に大切なわけです。息を吐けることを確認した後に、息を吸うための筋肉―すなわち横隔膜や肋間筋―のトレーニングをすると吸う力が飛躍的に高まります。例えば”Power lung”のような専門機器を使うのも一つですが、細いストローなどを口にくわえ抵抗を加えながら息を吸うなどは手軽に出来て有効です。普段何気なく行なっている呼吸ですがそのメカニズムは非常に複雑でね。

1日2万回も行なうこの呼吸は動物が生きていく上で最も必要不可欠な動作であり、首、肩、腰の問題に関わってくるだけでなく、姿勢、尿漏れなどの骨盤問題、さらにはその人の性格にも関わってくるものです。自分の体に耳を傾け、どのような呼吸をしているか一度観察してみてください。また他人と比べてみてください。色々な発見が出てくると思いますよ。もしあなたが体のことで困っている事があれば、呼吸の練習をするだけで意外と解決するかもしれません。             

Rib Flare:リブフレアー

Flared Rib:  肋骨の下部が浮いてしまった状況を指します。本来であれば腹側筋や他のコア筋によって浮かないようになっています。しかし、間違った呼吸方法を長年行なっていると浮いてしまいます。また妊娠中も肋骨が押し広げられるため肋骨が浮いてしまいますが、普通であれば出産後に戻ります。しかし、呼吸方法に問題があると浮き上がったままになってしまうことがあります。