
日常生活の中で、歩いたり走ったりする動作は常にしなければいけません。歩行動作の中で、最も重要な役割の一つを担っているのが骨盤です。
骨盤は、身体のバランスを保ち、力を伝達し、関節へのストレスを軽減するための、固定性と安定性の働きがあります。
この骨盤の動きを理解する上で有用なのが、PNF(固有受容性神経筋促通法)という考え方です。PNFでは、身体は直線ではなく対角線上のパターン(対角運動)で動くように考えます。骨盤で考えると、
- 前方挙上(Anterior Elevation)
- 前方下制(Anterior Depression)
- 後方下制(Posterior Depression)
- 後方挙上(Posterior Elevation)
という4つのパターンで動き、これらは歩行の各フェーズと密接に関係しています。本記事では、これらの骨盤運動パターンと、それぞれの機能・破綻(dysfunction)・改善エクササイズについて解説します。
歩行における4つの骨盤運動
歩行中、骨盤は左右で交互に対角線的に連動して動きます。重要なのは、それぞれの動き単体ではなく、左右の協調性です。以下に、歩行中に生じる骨盤の動きを解説します。




1. 前方挙上(Anterior Elevation:遊脚期)
骨盤が前方かつ上方へ動くパターンで、遊脚期(脚が前に出る時)に起こります。
役割
- 下肢の前方への振り出し
- 足のクリアランス確保
- 前方への推進力の生成
筋機能:腹筋と股関節屈筋(腸腰筋)の協調性
機能低下(dysfunction)
- 足の引き上げが不十分になり、つまずきやすくなる
- 股関節屈筋の過剰使用や体幹の代償動作が出る
反対側との関連
- この動きは、反対側の後方下制(Posterior Depression)とセットで機能します
→ どちらかが崩れると、両側に変化が生じます


(浮いている側の骨盤の沈み込み)
2. 前方下制(Anterior Depression:初期接地)
骨盤が前方かつ下方へ動くパターンで、足が地面に接地するタイミングで起こります。
役割
- 衝撃吸収
- 体重を支える
- 力の分散
筋機能:腰方形筋、体幹筋の遠心性収縮、
機能低下(dysfunction)
- 衝撃吸収がうまくできず、初期接地時の衝撃が大きくなる
- 以下のような症状につながる可能性:
- かかとの痛み
- 膝の痛み
- 下肢全体への過負荷


(かかと接地時の音が大きい)
3. 後方下制(Posterior Depression:立脚中期〜終期)
骨盤が後方かつ下方へ動くパターンで、体重を支えながら前に進む局面で起こります。
役割
- 片脚支持での安定性
- 効率的な前方推進
- 力の伝達
筋機能:殿筋群の安定性、体幹の伸展
機能低下(dysfunction)
- 反対側の遊脚期に骨盤が落ちる(pelvic drop)
- 推進力の低下
- 代償的な筋活動の増加
反対側との関連
- 後方下制は、反対側の前方挙上を支える基盤
→ ここが崩れると、反対側の前方挙上も機能不全になります


4. 後方挙上(Posterior Elevation:移行期)
骨盤が後方かつ上方へ動くパターンで、次の一歩へ移行する際に起こります。
役割
- 体重移動のスムーズ化
- 歩行のリズム維持
- 上半身(体幹・腕)との連動
機能低下(dysfunction)
- 動きがぎこちなくなる
- エネルギー効率が低下
- 歩行のリズムが乱れる

なぜ骨盤の動きが重要なのか?
歩行は、実は複雑な運動で、筋発揮のタイミング、他の部位との協調性、そして左右の連動によって成り立っています。
骨盤の動きが適切な場合、例えばスポーツ動作でのパフォーマンスが向上し、また怪我のリスクの低下にもつながります。一方で、骨盤の動作に機能不全がある場合、代償動作を生み、体の別の部分で痛みが出たり、骨盤の上下に位置する腰や股関節に痛みが出る可能性があります。
骨盤コントロールを改善するエクササイズ
以下に、重要な3つのパターンに対するエクササイズを紹介します。
1. 前方挙上:ハイステップ(High Stepping)
目的
遊脚期の骨盤の引き上げと前方移動を改善
方法
- 姿勢を整えて立つ
- 片膝を胸に向かって持ち上げる(マーチ動作)
- 股関節だけでなく骨盤から持ち上げる意識
- 左右交互にゆっくり行う
- 立っている脚の骨盤後方下制も意識する
ポイント
- 後ろに反らない
- 脚を上げるではなく骨盤を引き上げる
- 腹筋と腸腰筋のつながりを感じる

2. 後方下制:側臥位壁おし
目的
立脚側の安定性と推進力の向上
方法
- 壁に向かって横向きに寝る
- 上側の足を壁に当てる
- 骨盤から遠くに伸ばすように動かす
- 軽く壁を押す
- 骨盤から体幹にかけての連動を感じる
ポイント
- 腰ではなく骨盤で押す感覚
- 殿筋群の働きを意識

3. 前方下制:バスキングシール(Basking Seal)
目的
初期接地時のコントロールと衝撃吸収の改善
方法
- 横向きで股関節・膝を曲げる(膝の位置を高く上げすぎないように)
- 膝から下をベットから下ろす
- 足を上下に動かし、骨盤も一緒に動かす
- かす
ポイント
- 滑らかにコントロールする
- 腰を反らせない
- 骨盤の下制を意識する

まとめ
骨盤の動きは、歩行において非常に重要でありながら見落とされがちな要素です。
特に以下の問題がある場合:
- つまずきやすい
- かかとや膝が痛い
- 歩き方・走り方に違和感がある
その原因は、骨盤の協調運動の破綻にあるかもしれません。PNFの考え方に基づいた骨盤運動を理解し、適切にトレーニングすることで、より効率的で負担の少ない動きを獲得することができます。