Integrating Japanese Eastern medicine with Western medicine.

腹部痛は多くの人が経験する症状であり、軽い違和感から重篤な疾患まで幅広い原因が考えられます。
お腹の痛みは理学療法の対象ではないと思われがちですが、理学療法士による徒手療法が症状の改善に役立つケースも少なくありません。

本ケースレポートでは、十分な問診と評価を行った上で内臓モビライゼーションを行い、腹部痛の改善がみられた一例をご紹介します。

逆流性食道炎に対する内蔵モビライゼーション

患者情報

本患者様は以下の症状を訴えて来院されました。

  • 急性の腹部(胃部)痛
  • 明確なきっかけのない腹部痛の発症
  • 背中を反らす動作(体幹伸展)で痛みが増強
  • 軽度の腰部不快感を伴う(2週間ほど前から)

また、腎結石や内臓の重大な病気ではないかという不安があり、中等度の不安感を訴えていました。

慎重な評価

腹部痛という症状の特性を考慮し、治療前に詳細な問診(主観的評価)を行いました。具体的には以下の点を確認しました。

  • 食欲の変化
  • 排尿に関する症状
  • 便通の状態
  • 血圧の既往
  • 胃部症状を引き起こす可能性のある服薬状況

この評価の目的は、緊急の医療機関受診が必要な「レッドフラッグス」を除外することです。

評価の結果、直ちに医療機関への紹介が必要な所見は認められませんでした。ただし、理学療法で症状の改善がみられない場合には、追加の医学的検査が必要になる可能性があることを事前に説明しました。

本ケースの考察

評価を通して、腹部痛には以下の要因が関与している可能性が高いと考えました。

  • 胸腰筋膜(thoracolumbar fascia)の過緊張
  • 腹部組織の可動性低下
    (浅筋膜、腹筋群、腸腰筋、内臓の動き)
  • 不安による痛み知覚の増強(特に腹部は影響を受けやすい部位)

腹部と腰部は、筋膜・筋・神経系を介して機能的に強く関連していることが知られています。一方の制限が、もう一方の症状として現れることはよくあります。

特に、体幹伸展動作で痛みが増強したということで、内臓由来よりも筋膜や筋骨格系の関与が強いと判断しました。

これらの理由から、内臓モビライゼーションを試み、治療後の反応を慎重に評価・経過観察する方針を患者様に説明しました。

介入内容

治療は以下の内容で行いました。

  • 腹部の防御的緊張を軽減し、組織の滑走性を改善する内臓モビライゼーション
  • 腹部の緊張と脊柱機能に深く関与する脊柱構造のモビライゼーション

いずれも、患者様の反応を確認しながら安全かつ許容範囲内で行いました。

治療後の変化

治療後、患者様は以下を報告されました。

  • 腹部痛の軽減
  • 腰部を含む全体的な不快感の改善
  • 症状に対する不安感の軽減

セッション終了時には、

  • 数日間は症状の経過を注意深く観察すること
  • 鋭い痛みや持続的・増悪する腹部痛が再発した場合は医療機関を受診すること

をお伝えしました。

フォローアップ

数日後にフォローアップのメールを送付したところ、

  • 症状は改善傾向
  • 急性の腹部痛は再発せず
  • 日常生活に問題なく復帰している

との返答がありました。

考察:腹部痛と理学療法

腹部痛は非常に一般的な症状であり、必ずしも内臓疾患が原因とは限りません。スクリーニングを通して、内臓の疾患が痛みの原因ではないと判断した場合、以下の要因が関与していることがあります。

  • 筋膜の制限
  • 筋膜性腹部痛
  • 呼吸や姿勢の問題
  • ストレスや不安

理学療法士は、腹部痛に関して、以下のような症状に対してサポートが可能です。

  • GERDに関連する機械的緊張
  • 機能的・筋膜性の腹部痛
  • 胃炎に伴う不快感(医療機関との連携のもと)

まとめ

本ケースのまとめです。

  • 丁寧なスクリーニングと評価
  • 医療機関受診の必要性を明確に伝えるコミュニケーション
  • 患者中心で安全な保存的アプローチ

これらを適切におこない、症状軽減につながりました。内臓モビライゼーションは、適切な評価と安全管理のもとで行えば、腹部痛に対する有効な選択肢となる可能性があります。